イラストレーションのDNAを
未来に生かす
―変化の早い時代にこそ、表現に回帰する―
イラストレーションとは、そもそも、何でしょうか。私が思うイラストレーションの定義は「より早くまたは深く、より直感的に伝わる表現手段。」時代は変わっても、この考え方はイラスト表現の様々な現場に残っていると考えています。
イラストレーションの歴史は古く、書物の成立した古代エジプト以降、挿絵という形で絵画芸術の一分野として発展し、印刷技術の進歩、出版・広告・デザイン、デジタル・ITの技術の革新、浮世絵、アニメーション、漫画など多様化した表現、近年ではAI、プロジェクションマッピング、と表現領域の選択肢も2Dに留まらず、さらにインターネットの急速な進化がこれらを革命的に激変させている真っ只中です。
DNAという言い方をしましたが、デジタルが進化し、AIで様々な分析が究極まで進む時代、コンピューターが絵を描いてしまう時代には、情報の集積が経験値を凌駕していくことでしょう。それでも、人間であるイラストレーターが存在するとしたら、役目は何でしょうか?正確さ、スピード、複雑さだけでは、人は近い将来、コンピューターに凌駕されてゆくことでしょう。人は、描く行為に様々な意味を感じていると思います。描き手の温もりや、情熱、その時々の心のあり方、人となり、伝わってくる個性的な表現の組み合わせ、筆致、割り切れないアナログな情報や情熱は、常にAIに先んじると思います。AIが進めば進むほど、イラストレーターは、「表現に回帰する」必要性に直面すると考えています。前述の「より直感的に伝える」という部分こそが、イラストレーターのDNAであると感じております。
JILLAはイラストレーションの業界団体ですが、イラストレーションのみで、生計を立てている方は、多くありません。個人事業者が増えていく傾向がますます強くなっていくこれから、グラフィックデザイナー/Webデザイナー/出版編集者/アニメーター/漫画家/アーティスト/多ジャンルのインフルエンサーなど多種多様なクリエイティブ系の職業の方が、必要に応じてイラストレーションを、あるときは外注し、あるときは自作し、予算に応じて「より早くまたは深く、より直感的に伝わる表現手段。」として、使っていくことと思います。こういう時代に、業界団体が果たすべき役割の一つが、「イラストレーションのDNAを残す」ことだと思っています。
日本のイラストレーションは、古くは権力に付随した伝統工芸、江戸の大衆文化が生んだ浮世絵をはじめとした様々な表現から熟成伝承して、出版・広告でさらに近代化し、漫画という独自の表現に至り、まだまだ、世界から注目されています。多様性がさらに進むであろう現代の日本で、イラストレーションに関わられている皆様は、表現者のDNAを忘れずに、さらなる活躍をしていっていただけることを心より祈念いたしますとともに、会員の皆様が、少しでも長くイラストレーションに関わり続けられるよう、様々な事業で支援していくことを誓って、協会からのご挨拶とさせていただきたいと思います。
協同組合日本イラストレーション協会/代表理事
誉田哲朗
2019年8月