【クリエイター実態調査、10年の軌跡②】契約書・インボイス・営業力 〜フリーランスを取り巻く環境はどう変わったのか〜

JILLA(協同組合日本イラストレーション協会)が継続して実施している「クリエイター実態調査アンケート」。
レポート①では、回答者プロフィールや仕事の変化について、この10年間の推移を振り返った。今回は、「事務・経理・福利厚生」と「仕事環境・必要な支援」に焦点を当て、2024年調査から見えてきたクリエイターを取り巻く現状と、その背景を探っていきたい。
■ 契約書、「常に交わす」が55.8%→36.6%に なぜ後退したのか
まず目を引くのは、契約書締結率の変化だ。
受注時に契約書を「常に交わす」と回答した割合は、2022年調査の55.8%から2024年調査では36.6%へと大きく低下し、「たまに交わす」(47.1%)が最多となった。「交わさない」も16.3%に増えている。
一見すると契約意識が後退したようにも見えるが、単純にそうとは言い切れない。2022年調査は、コロナ禍による取引トラブルへの警戒感から契約の書面化が進んだ特殊な時期だった。その後、取引が活発化し、短納期・小規模案件が増えたことで、現場では契約書を取り交わす余裕がないケースも少なくないと考えられる。
自由回答でも、「依頼から納品まで数日しかなく、契約書を交わす時間がない」といった声も寄せられており、取引内容の明文化と実務のスピードとの間で葛藤している様子がうかがえる。

発注書・見積書・納品書についても同様の傾向があり、一度進んだ書面化が、案件の規模や取引先によって揺り戻されている。「重要性はわかっているが、運用しきれない」というのが、多くのクリエイターの実感に近いのではないだろうか。
■ インボイス、約半数が「未登録・様子見」 制度施行から1年以上経っても
2023年10月に始まったインボイス制度への対応も、依然として過渡期にある。
「登録した」は49.9%だった一方、「登録するつもりはない」(33.6%)、「登録する予定」(16.5%)を合わせると、約半数が未登録または判断保留という結果になった。
自由回答では、「インボイス制度を見直してほしい」「廃止してほしい」といった意見が数多く寄せられた。特に売上規模が小さいクリエイターほど、免税事業者としてのメリットと取引先からの登録要請との間で判断に迷う状況がうかがえる。
制度開始から1年以上が経過しても、対応状況には大きなばらつきがあり、今後の動向が注目される。

■ フリーランス法、認知度は73.5% それでも4人に1人は「知らない」
2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)については、「知っている」が73.5%と高い水準だった。施行直後の調査であることを考えれば高い水準にある。
一方で、「知らない」は26.5%と約4人に1人に上る。
認知度の高さと、実際にトラブル発生時に「弁護士等法律の専門家に相談」する割合がわずか6.5%にとどまっている実態を重ねると、「知ってはいるが、使いこなせてはいない」という段階にあることが見えてくる。
自由回答でも「フリーランス法の存在があるとはいえ、結局泣き寝入りで仕事をせざるをえない」という声があり、制度の周知と、実際に機能する仕組みづくりは、別の課題として捉える必要がありそうだ。

■ 今後身につけたいスキルは「営業力」がトップ ”仕事を獲得する力”への関心が高まる
今後身につけたいスキルとして最も多く挙げられたのは「営業力(交渉・マーケティング)」(379件)で、僅差で「営業力(告知・宣伝・SNS)」(363件)が続いた。
レポート①で紹介したように、「SNSなどでの作品発表」が最大の販路となった現在、作品を制作する力だけでなく、自ら発信し、仕事につなげる力の重要性が高まっていることがうかがえる。
一方、「法律知識(下請法・著作権法等)」は、2014年調査の13.6%から2022年調査では4.4%まで低下したものの、2024年調査では6.9%へ上昇した。2023年のインボイス制度導入や2024年のフリーランス法施行といった制度の変化を背景に、法務に関する知識への関心が再び高まっていることがわかる。
この10年間を通して見ると、フリーランスクリエイターに求められるのは、技術に加え、営業・発信力・制度や契約に関する知識など、変化する環境に対応しながら学び続けることの重要性が、この調査から浮かび上がってきた。

■ 副業の理由、第1位は「本業だけでは生活できない」
レポート①では、副業を組み合わせる働き方がこの10年で大きく広がったことを紹介した。
今回、その理由を見ると、「本業だけでは生活できない」(20.9%)が最も多く、「スキマ時間を生かせるから」(18.5%)、「本業が活かせるから」(17.1%)が続いた。
前向きな理由(スキマ時間の活用、スキルの掛け合わせ)も一定数あるものの、最多の理由が「生活できないから」である点は見過ごせない。
働き方の多様化という側面もある一方で、本業だけでは安定した収入を確保しにくい現実が、副業の広がりを後押ししていることがうかがえる。

■ 制作環境は「自宅」に回帰、iPad Proの利用も拡大
仕事をする場所は「自宅事務所」が80.5%で、2022年調査からの一時的な分散(コワーキングや賃貸オフィスの利用増)を経て、在宅中心の働き方に再び戻ってきている。固定費を抑えた小規模運営という、この業界の基本構造がここでも表れている。
制作環境にも変化が見られた。ドローイング機材では、2022年調査で主流だったWacom製液晶タブレット(34.9%)とペンタブレット(35.9%)に加え、2024年調査ではiPad Proの利用率が30.1%まで上昇した。
持ち運びやすさや作業場所を選ばない制作スタイルが広がり、クリエイターの制作環境はより柔軟なものへと変化している。

■ 休暇・健康診断は「改善」、しかし将来不安は10年間ほぼ変わらない
福利厚生に関する項目では、改善傾向も見られた。
「十分に休暇が取れている」は34.3%となり、2022年調査(16.8%)から大きく回復した。健康診断を「毎年受けている」と回答した割合も46.6%まで増加しており、健康管理への意識は高まっている。
しかし、不安の内容は10年前とほとんど変わっていない。
「いつ収入が減るか不安」(17.0%)、「何歳まで働けるか不安」(16.6%)は、2014年調査から一貫して上位を占め続けている。
日々の働き方や健康管理は改善している一方で、収入の継続性や将来への不安といった構造的な課題は、依然として解消されていないことがうかがえる。
制作環境やツールは大きく進化したものの、クリエイティブの仕事は依然として個人の技能や経験に支えられる側面が大きく、将来への不安は、この10年間を通じても変わらないテーマであり続けている。

■ 業界団体への期待は「交流」から「実務支援」へ
業界団体に期待することとして最も多かったのは、「クリエイターの地位向上(提言活動・業務支援)」(443件)、「クリエイターの地位向上(相談窓口)」(399件)だった。
かつてのような交流イベントや親睦だけでなく、契約トラブルや制度対応など、実務的な支援への期待が強まっている。
これは、契約書やインボイス、フリーランス法といった「個人では対応しきれない制度対応」が増えたことの裏返しともいえるかもしれない。

■ 自由回答で最も多かったのは「画像生成AI」への懸念
そして、今回の自由回答でひときわ多く寄せられたのが、画像生成AIに関する意見だ。
「無断学習による著作権侵害への懸念」や、「AIによって価格競争がさらに激しくなるのではないか」といった不安が数多く寄せられた。
一方で、「AIを制作ツールとして活用したい」「うまく付き合いながら新しい働き方を模索したい」といった前向きな意見もあり、職種や年代、業務内容によって受け止め方には違いがあることがうかがえた。
なお、このテーマについては、別途実施した「画像生成AIに対する意識調査」の記事で詳しく紹介しているので、あわせてご覧いただきたい。

■ まとめ:「守り」と「攻め」の両方が求められる時代へ
今回の調査から見えてきたのは、フリーランスクリエイターが、これまで以上に幅広い役割を担うようになっている姿である。
契約書やインボイス制度、フリーランス法への対応といった「守り」の知識が欠かせない一方で、営業力や情報発信力など、自ら仕事を獲得する「攻め」の力も求められており、フリーランスには事業者として幅広い対応力が求められる時代になっている。
また、休暇の取得や健康管理など、働く環境には改善の兆しが見られる一方で、収入や将来への不安は依然として大きく、制度と現場との間にはなお隔たりがあることも明らかになった。
2026年度は、新たな実態調査を実施する年でもある。10年間の変化を振り返ることで見えてきたものが、次の10年でどのように変化していくのか。JILLAでは今後も継続的な調査を通じて、その変化を記録し、クリエイターを取り巻く環境の実態と課題を発信していく。
プレスリリース1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000169722.html
プレスリリース2:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000169722.html
■ 本件に関するお問い合わせ
[団体名] 協同組合日本イラストレーション協会(JILLA)
[連絡先] https://jilla.or.jp/contact
[担当部署] 調査研究事業
報告書のお取り寄せについて
■ PDF版(無料)
内容:本調査の全文(46ページ)
「実態調査アンケート報告書 PDF版希望」と書いて、下記URLよりお申し込みください。
https://jilla.or.jp/contact
■ 印刷版 価格:17,600円(16,000円+税10%)
内容:本調査の全文|有識者コメント|付録:画像生成AIについての意識調査の全文|60ページ
「実態調査アンケート報告書 購入希望」と書いて、下記URLよりお申し込みください。
https://jilla.or.jp/contact



