【クリエイター実態調査、10年の軌跡①】この10年で、クリエイターはどう変わったのか。

10年にわたる実態調査から見えてきたもの
〜女性比率の上昇、副業の定着、そして収入の変化。数字が語る10年間〜
イラストレーター、グラフィックデザイナー、Webデザイナー――絵やデザインを仕事にするフリーランスの姿は、この10年でどのように変わったのだろうか。
JILLA(協同組合日本イラストレーション協会)が2014年から隔年で実施している「クリエイター実態調査アンケート」は、2024年で調査開始から10年の節目を迎えた。そこで2014年から2024年までの調査結果をあらためて比較・分析したところ、単年の数字だけでは見えてこなかった、クリエイターを取り巻く環境や働き方の変化が浮かび上がってきた。
本ブログでは、「回答者について」と「仕事について」の項目を中心に、この10年間で起きた変化を振り返る。
女性比率は「一貫して増加」ではなく、この数年で急上昇
回答者の女性比率は、2014年調査の55.6%から2024年調査では64.6%まで上昇した。ただし、2018年調査までは54〜55%前後で推移しており、大きく変化したのはここ数年である。
回答者の年代構成も変化している。2022年調査までは40〜50代が約65%を占めていたが、2024年調査では30代(33.3%)と40代(33.9%)が中心となり、50代は17.9%まで減少した。
女性比率の上昇と回答者の若年化が同時に進んでいることから、イラストレーター、グラフィックデザイナー、Webデザイナーといった職域は在宅ワークとの親和性が高く、SNSでの発信もしやすい。こうした環境の変化が、フリーランスという働き方への参入を後押ししている可能性も考えられる。
地域別では東日本が61.7%を占め、大都市圏への集中という構造はこの10年間を通じて大きく変わっていない。

開業年齢は早まり、「未経験からの独立」も増加
開業時の年齢にも明確な変化が見られる。
2022年調査では35〜39歳(24.4%)が最多だったのに対し、2024年調査では25〜29歳(28.9%)、30〜34歳(29.8%)が中心となり、25〜34歳だけで約6割を占めるまでになった。
また、独立前の勤務経験は、かつて会社員として一定の経験を積んだ後、30代後半以降に独立するという流れが概ね一般的だった。しかし直近の調査では、20代後半から30代前半で開業する層が中心となっている。「1〜3社勤務」が依然として最多である一方、「勤務経験なし」で独立した割合は7.5%から13.6%へとほぼ倍増した。
これらの変化は、SNSで作品を発信し、オンラインで情報や技術を習得できる環境が整ったことにより、「会社で経験を積んでから独立する」という従来のキャリアだけでなく、独学や自己発信を軸とした新しい独立スタイルが広がっていることを示唆している。
実際、技術の習得方法では、以前の勤務先に代わって「独学」が再び最多となっており、こうした傾向とも一致している。
職種構成はコロナ禍の反動を経て、平時に近い形へ
主たる職業の構成を見ると、コロナ禍の2022年調査ではWebデザイナーの割合が大きく増加したが、2024年調査では19.5%まで低下し、イラストレーターやグラフィックデザイナーの構成比が回復した。
これはイラストレーターが急増したというより、コロナ禍で一時的に高まったWeb需要が落ち着き、職種構成が平時に近い水準へ戻ったと見ることができる。
事業体制でも同様の傾向が見られる。個人単独で活動する「本人のみ」の割合は、2021年の76.6%から2024年には84.4%まで回復し、コロナ禍対応の中で一時的に従業員雇用や外注活用が増えた可能性はあるものの、固定費を抑えた小規模で柔軟な事業運営がフリーランスをはじめとする小規模事業者の基本構造として定着していることがうかがえる。

副業・兼業は一般化し、トラブルは再び増加傾向に
副業・兼業については、「開業以来、副業をしたことがない」と回答した割合が2014年の72.4%から2024年には50.6%まで低下した。
つまり、この10年間で副業や兼業を組み合わせた働き方が一般化しつつあることが読み取れる。
これは収入の安定化を図るための選択でもあり、複数の仕事を組み合わせながらキャリアを形成する働き方が広がっていることを示している。
一方、クライアントとのトラブルについては、少し複雑な動きが見られる。「特にない」と回答した割合は、2014年調査の36.3%から2022年調査では80.8%まで大きく改善した。しかし2024年調査では57.7%まで再び低下している。
その背景には、2022年のコロナ禍で対面商談や新規開拓そのものが縮小し、トラブルの母数となる取引機会が少なくなった可能性も考えられるが、2023年10月に始まったインボイス制度をめぐる契約見直しなど、新しい種類のトラブルが6.4%を占めるなど、契約や制度をめぐる新たなトラブルも生まれていることがうかがえる。

SNSが「「友人・知人・同業者からの紹介」を抜き、最大の営業手段に
販路拡大の方法では、「SNSなどでの作品発表」(34.1%)が、「友人・知人・同業者からの紹介」(30.1%)を上回り、最も多い営業手段となった。
販路拡大の手段にも大きな変化がある。
かつて仕事は紹介や既存取引先からの継続依頼によって広がることが多かった。しかし現在では、SNSで作品を公開し、そこから企業や個人の依頼につながるケースが珍しくなくなり、人的ネットワークを中心とした受注から、自ら情報発信し仕事を獲得するスタイルへと、大きな転換が進んでいる。
海外案件はコロナ禍で急落後、2024年に過去最高水準へ
海外クライアントからの直接受注にも大きな変動があった。
2016年調査では11.8%、2020年調査では12.4%と、海外案件は緩やかに増加していた。しかしコロナ禍の影響を受けた2022年調査では4.9%まで急落した。
ところが2024年調査では17.0%となり、調査開始以来の最高水準まで到達している。
オンライン商談の定着や海外との取引環境の改善により、日本国内だけでなく海外市場もフリーランスの重要な仕事の場になりつつあることがうかがえる。
SNSやポートフォリオサイトを通じて海外クライアントと直接つながる機会も増えており、今後の成長領域として注目される。

最も象徴的な変化ーー「個人商店・個人」との取引が10年で3倍以上に
この10年の変化の中でも、特に象徴的なのが取引先構造の変化である。
2024年調査では、「個人商店または個人」との取引が382件で最も多く、「一般企業から直接受注」「広告代理店」「出版社」を上回った。
さらに、売上に占めるメインクライアントとしても、「個人商店または個人」は2014年の3.9%から2024年には12.7%へと、10年間で3倍以上に増加している。
SNS、ココナラなどのスキルマーケット、LINEスタンプのような個人制作・販売プラットフォームの普及により、企業間取引だけでなく、個人事業主や一般消費者と直接つながる機会が飛躍的に増えたことが背景にあると考えられる。
最も売上比率の高いクライアント区分を見ると、2024年調査では1位が「出版社」16.2%、2位が「一般企業から直接受注」14.5%であり、この2つは依然として経営基盤の大きな柱であり続けている。一方でかつては副次的な仕事と考えられることが多かった個人からの受注が、現在ではフリーランスの重要な収入源の一つへと変化しつつある。

売上は下方にシフトし、収入の二極化も進行か
取引機会の広がりが、そのまま売上規模の拡大につながっているわけではない。
年間売上の分布を見ると、2014年調査で最多だった「500~1,000万円未満」は49.9%だった。しかし2024年調査では28.4%まで縮小している。
代わって、「100万円未満」や「100~300万円未満」といった小規模帯の構成比が拡大した。2024年調査では、「100万円未満」が16.9%、「100~300万円未満」が20.5%となっている。
年間所得についても同様の傾向が見られ、10年間で収入層の二極化、あるいは全体としての下方シフトが進んでいる可能性がある。
SNSによって仕事の入口は増え、個人クライアントとの直接取引も広がり、副業・兼業を組み合わせた柔軟な働き方も一般化した。
しかし、それは必ずしも安定した収入を意味しない。小規模案件や単発案件が増えれば、取引件数が増えても売上規模は伸びにくい。
入口の多様化と収入の安定化は、別の課題として考える必要がある。

まとめ:自由になった働き方。その先に求められるもの
この10年間で最も大きく変わったのは、クリエイターが「誰と、どのようにつながり、仕事を得るか」である。
出版社や広告代理店だけでなく、一般企業や個人と直接つながり、SNSが営業の入り口となる時代になった。20代で独立し、独学で技術を磨き、自ら発信して仕事をつくるという働き方も、もはや特別なものではない。
その一方で、副業の定着や売上構成の変化に加え、インボイス制度やフリーランス法への対応など、事業を継続するために求められる知識や責任は確実に増えている。
働き方の自由度は高まったものの、その自由を支えるためには、営業力や情報発信力に加え、価格交渉、契約、税務、制度対応、収入管理といった「経営」としての難しさも増している。
この10年間の数字が示しているのは、フリーランスのクリエイターがより自由に、より早く、より直接的に仕事へアクセスできるようになった一方で、その先にある安定性や持続可能性については、なお課題が残されているという現実である。
JILLAでは今後も継続的な実態調査を通じて、クリエイターを取り巻く環境変化を把握するとともに、実態に基づく情報発信と課題の可視化に取り組んでいく。
次の10年、この数字たちはどのように動いていくのか。
引き続き注目していきたい。
プレスリリース1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000169722.html
プレスリリース2:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000169722.html
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[団体名] 協同組合日本イラストレーション協会(JILLA)
[連絡先] https://jilla.or.jp/contact
[担当部署] 調査研究事業
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